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第六章:過去の亡霊

Author: 佐薙真琴
last update Last Updated: 2025-12-07 19:00:29

 柊との生活が始まって三ヶ月。周子の世界は、完全に柊だけになっていた。

 外出するのは、柊と一緒のときだけ。一人で出かけることは、許されなかった。

 携帯電話も、柊に管理されていた。誰かから連絡が来ると、柊がチェックする。

 それは、明らかに異常だった。

 でも、周子は受け入れていた。

 むしろ、この狭い世界が心地よかった。考える必要がない。決断する必要がない。すべて、柊が決めてくれる。

 ただ、夜になると、不安が襲ってきた。

 これは、本当に愛なのだろうか。

 それとも、ただの共依存なのだろうか。


 ある日、柊が外出すると言った。

「今日は、一人で出かけてくる」

「......どこに」

「仕事だよ」

 柊の「仕事」について、周子は詳しく知らなかった。

「いつ帰ってくる?」

「夜には戻る」

 柊は周子の頬にキスをした。

「いい子で待っててね」

「......ええ」

 柊が出て行った後、周子は一人きりになった。

 広いマンション。でも、柊がいないと、まるで牢獄のように感じる。

 周子は窓から外を眺めた。

 東京の街。無数の人々が行き交っている。

 あの中に、かつての自分もいた。仕事に追われ、目標に向かって走り続けていた自分。

 今の自分とは、まるで別人だ。

 私は、何をしているんだろう

 ふと、そんな疑問が湧いてきた。

 でも、すぐに頭を振った。

 考えてはいけない。考え始めたら、すべてが崩れてしまう。


 その時、インターホンが鳴った。

 誰だろう。宅配便だろうか。

 モニターを確認すると、見知らぬ女性が立っていた。

 三十代くらい。落ち着いた雰囲気。

 周子は、インターホンに出た。

「はい」

『あの、冬木柊さんのお宅ですか?』

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